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目からわかる体の病気

「ものをみる」ということは私たちが生活をおこなっていくうえで非常に重要なことであり、外界からの情報を得る手段のうち、視覚によるものが90%を占めるといわれています。そしてこの視覚の最前線を担っているのが長さわずか24mm程度の小さな構造物である眼ということになります。視覚を代表するものとしては視力と視野(目を動かさないで見える範囲)がありますが、「最近、物をみるとぼやける」とか「見つめている所のそばに見えない部分がある」など視力障害や視野障害を疑わせる症状で眼科を訪れる患者様も少なくありません。そこでこのような目の症状から発見される全身的な病気の代表的なものについてお話させていただきます。

脳梗塞や脳腫瘍

眼球はよくカメラにたとえられますが、眼球の一番奥(眼底といいます)にある網膜はフィルムに相当し、ここには光の明るさや色合いを感じとる視細胞が集まっています。そして網膜に到達した光の信号は電気の信号へと変えられ、視神経を経て脳の中の視覚野へと情報が送られ最終的に映像となります。そのために脳梗塞や脳腫瘍などの頭の中の病気がこの視神経を含めた信号の通路にまで障害が及んだ場合には視力や視野に異常がみられることになります。例えば脳梗塞では症状は障害をうけた脳の左右反対側に現れますが、視野異常が出現する場合、右側の脳に障害があれば両目の左側が、左側の脳に障害があれば両目の右側が見えなくなります。その結果、道を歩いていても、家の中でもいつも同じ側ばかりぶつかるといった症状を訴えられて眼科を受診される方も少なくありません。また脳腫瘍の代表例として下垂体腺腫というものがありますが、これは全脳腫瘍の約15%を占めています。下垂体は全身のホルモンを調節する中枢ですが、その近くを視神経が通っているため、下垂体に腫瘍ができ、ある程度の大きさになると視神経を圧迫するようになり、その結果、視力や視野に異常が起こることになります。視野異常は左右の目の外側より障害され、典型例では両耳側半盲(それぞれの目の外側が見えづらい状態)を呈します。症状としてかすみがかかったような感じや視力が少し落ちてきたと感じることだけの場合もありますし、本を読んでいても改行するときにうまく次の行が見つからないなどで気づき眼科を受診されることもあります。

また脳腫瘍などにより脳圧が上昇した場合には視神経乳頭(網膜の視細胞につながっている神経の線維が集まり、視神経となって眼球の外へ出て行くところ)が腫れて、突出してくることがあり、うっ血乳頭と呼ばれます。一般的に初期には視力低下はきたしませんが、時には一瞬、部屋の明かりが消えたようだとか目の前が白っぽくなるなどの数秒間の一過性視力低下が起こることがあります。

脳梗塞症例

図1 脳梗塞症例
黒い部分は視野検査にて検査の光が見えていないと判断された範囲です。
右側の脳に梗塞が起ったため、両目とも左側が見えていません。

下垂体腺腫症例

図2 下垂体腺腫症例
黒い部分は視野検査にて検査の光が見えていないと判断された範囲です。
両目とも上外側に見えないところがあります。

糖尿病、高血圧症

近年、日本で増加の一途をたどっている生活習慣病の中に糖尿病があります。そして糖尿病の三大合併症の一つには眼疾患があり、糖尿病網膜症は現在、成人の失明の大きな原因となっています。網膜はたくさんの細い血管で栄養されており、この血管に高血糖による負荷がかかることで血液の流れが悪くなることで発症するといわれています。しかし網膜症はかなり進行しても視力低下などの自覚症状に乏しい場合が多いため、ある日、突然に目の前が真っ暗になったということで眼科を受診されたときには、すでに硝子体出血や網膜剥離などの重篤な状態になっている場合もみられます。また糖尿病自体が自覚症状に乏しい病気である一方で、糖尿病は網膜症だけではなく白内障や外眼筋麻痺などの眼合併症もみられることがあり、かすみ感や物が二つに見えるなどの症状から眼科を受診し、眼底検査により糖尿病が発見されることもあります。もう一つ生活習慣病の代表的なものとして高血圧症があります。そして高血圧によっても網膜の血管異常や血流障害が起こり、高血圧網膜症とよばれています。眼底は人体で唯一、血管の状態を直接肉眼で観察できるところです。これまでお話をさせていただいたうっ血乳頭、糖尿病網膜症、高血圧網膜症もすべて眼底検査により観察が可能であり、眼底は多くの情報を私たちに提供してくれます。例えば眼底の網膜血管を観察することで高血圧による変化や動脈硬化の程度などがわかります。そして眼の血管で起こっている変化は全身の血管にも起こっている可能性が高いことが考えられるのです。すなわちこのように網膜血管の状態を把握しておくことで高血圧網膜症を検査するだけではなく、将来、発症するかもしれない心筋梗塞や脳梗塞の予防にもつながることになります。まさに「樹の枝をみて幹を知る」といったところでしょうか。 昔から「目は心の窓」と言いますが、病気の観点から申しますと眼をみることでその後ろにひそんでいる全身的な病気がみつかることも決してめずらしいことではないのです。

2009年1月16日奈良日日新聞掲載分